学生・留学生向け情報
海外へ留学したい学生へ
留学体験記
留学を終えて
宮崎大学農学部 後藤 瑞枝
(平成17年度 タイ・チュラロンコン大学に留学)
タイ王国の首都、バンコクで滞在した約一年間、私は日本での専攻と同じ獣医学部の現地の大学生と講義や実習を共に受けて過ごした。自分の生まれ育った国以外での生活は、時に苦しく、時に切なく、時に明るく、本当に1年間だったのだろうか、8年間ではなかったのだろうかと疑うほどであった。
タイ王国は東南アジアの中でもリーダー的な役割を果たしているだけあり、バンコクでは地下鉄、高架鉄道も開通し、新しい商業施設、新空港の建設など、街が今まさに移り変わって行く様子が、日々の生活においても感じられた。物価にも人々の生活にも幅があると感じられた。
そのように活気あふれるバンコクの中心商業地域の一つであるサイアムとの続きに、私の通ったチュラロンコーン大学獣医学部は立地している。授業形式としては、午前中に講義をして午後にその実習を行うというようになっており講義内容の理解をより深めやすいものだと感じた。学生はほぼ全ての教科において英語の教科書を使用し、実習においてもディスカッションの時間を多くとるというような日本との違いがあった。また、ボランティアキャンプといった学生が地方へ行って、動物にワクチン接種や簡単な手術を行うものもあり、それに参加した際には、学生は学年をこえて協力し合い、学生のみで手術等に取り組んでいたのには驚いた。セミナーでは発表、質疑応答を英語で行った。あらゆる場面で共通言語として使われた英語の必要性は身をもって体験できた。
卒業論文として、豚の細菌病である腸腺腫症候群と豚赤痢の原因菌の遺伝子検出について研究した。大学の実験施設はほぼ日本と同じであり、宮崎で学んだ実験技術をタイでも生かすことができた。日本では見ることのない症例も数多く目にすることができた。
大学に通うということと同時に、私は学生寮での1年間の生活も経験した。初めてのルームメイトとの共同生活。当初は寮のシャワーが水であったことにも、だしのきいた日本食を食べていなかったせいか髪の毛はパキパキと乾燥しきっていたことにも、さらに原因不透明の不眠と、かなり荒れた生活であった。
そのような状況下においても私とルームメイトはたくさんのことを話し、体験し、時には一緒に涙を流し、笑いながら眠り、二人で寝坊したりした。国を超えてこのように関係を深めることができたのは、大変よい経験になったのではないかと思う。
日本では生では食べない野菜として幅をきかせている、もやし、インゲン豆、ニラなどをタイ人は生で食す。車を路上駐車するときには、サイドブレーキは引かない。何列にも縦列駐車された車から自分の車を出すときに他の車を自由に移動できるようにするためである。タクシーには乗れるだけの人数が乗るし、観覧車のまわるスピードはやけにはやい。日本人はいろいろなことに深刻になる傾向があるし、それがどちらかといえば社会に受け入れられているがタイ人は深刻になることはあまりよしとはされていない。これらは大変わかりやすい例ではあるが、常識と一般に呼ばれているものとは果たしてなんなのだろうか。国や環境が変われば常識だって変化する、それは社会の中でも人間一人ひとりの中でもいえるのかではないかと思う。
人々には生まれ育った国の宗教や文化の違いから国民性の違いというものが当然存在するということを身をもって体験し、それによって自分の国の性質や現状を再発見することができた。
それぞれの国でそれぞれの人々が生活し、それぞれの価値観のもと、幸せを感じて生きている、それは日本であってもタイであっても、きっと世界のどこの国であっても変わらないのではないだろうか。バンコク共通である。世界は輸送機関の発達や人々の生活レベルの向上などによりますます小さくなってきている。それと同時に人々は自分の国や民族、宗教などにますます誇りを持ち、国独自の伝統や文化を尊重していくのではないだろうか。世界はひとつになりつつあるのに国別に見るとその反対の方向に向かっていっている。そしてそれは国を構成している人間一人ひとりに言えるのではないだろうか。その状況を前提としたものの見方を今後へつなげていくこと、それがこの留学で私が得たものであると思う。
このような機会を与えてくださってありがとうございました。協力していただいたすべての人に感謝します。